金権政治打破と二大政党制の実現が、導入の主な目的だった。
改めて小選挙区制の功罪について考えたい。
https://webronza.asahi.com/business/articles/2021102000005.html?page=1
(10/23 論座)
小選挙区制導入のきっかけとなったのは、1988年朝日新聞のスクープに端を発したリクルート事件である。
この事件で竹下内閣は倒れた。
金権政治が問題視され、なかでも当時の選挙制度が政治に金がかかりすぎることの大きな原因だとされた。
当時の中選挙区制は広い選挙区から3~5人の議員を選出するものだった。
つまり自民党内の議員同士が2~3の議席を巡り当落をかけた競争相手になる。
野党候補の票が伸びなくても、他の自民党議員が票を取り過ぎれば、落選する可能性がある。
誰がトップ当選して自民党内の地位を向上させることができるかも、重要だった。
中選挙区制の下では、自民党と他党の候補者との争いではなく、自民党内の争いだったのである。
これが派閥を中心として激しい金権政治を生んだ。
派閥の力となる国会議員の“数”を持つためには、“金”が必要だった。
その典型が田中角栄率いる木曜クラブ(田中派)だった。「数は力」だったのだ。
小選挙区制であれば、同じ自民党候補同士の争いは起きず、派閥本位ではなく、政策本位、政党本位の選挙が行われ、金権政治ではなくなるはずだと期待された。
また特定の利益団体より市民全体の利益が優先されるようになると考えられた。
さらに、長期間に及ぶ自民党支配に倦んでいた人たちに対しては、政権交代が容易になるという主張もされた。
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今回の衆議院選を前に、宮城県の河北新報社は、中選挙区時代から東北で衆院選を戦った自民の閣僚経験者ら5氏にインタビューしている。
その発言は「現状への危機感がにじむ示唆に富む内容だった」と言う。
河北新報がインタビューした元議員のほとんどが指摘するのが、政治家の質が低下したことである。
小選挙区制導入以後に当選した議員に、かつての三角大福中のような迫力ある人物を見つけられない。
元議員が指摘するように、政治家は小粒になっている。
これが小選挙区制が生んだ最大のデメリットかもしれない。
「政党トップの人気にすがる『風頼み』の議員が増え、主体性が消えた」「意見をぶつけ合う切磋琢磨(せっさたくま)がなくなり、人が育っていない」。
政治家としての質の低下を指摘し、「改革は大失敗だった。政治のスケールが小さくなった」と後悔の言葉も漏れた。
防衛大臣・農水大臣を務めた玉沢徳一郎氏は、今の小選挙区制の下では「(候補者は)よほどまじめでなければ政策を勉強しない」とする。「風」がどこに吹くかで無党派層の支持が決まるためだ。
環境庁長官・防衛庁長官を務めた愛知和男氏は、「公認権も選挙資金の差配も党本部が全て握っているため、党内で物が言えない。公認権がいわば脅しとなり、党本部の言うことを聞かざるを得なくなった。政治家のスケールを小さくしている要因だ。議員一人一人の面白みがなくなっている」。
小選挙区制は「日本の社会になじまない」として、「戻せるなら(中選挙区制に)戻した方がいい」とまで語っている。
戻せないのであれば、米国のように予備選を導入し、幅広い人材を募れるようにすることを提案している。
予備選の導入は重要な提言だ。
衆議院・参議院それぞれで議員を務めた荒井広幸氏は「小選挙区では政党助成金を党が配るため、党の代表や幹事長に権限が集中しがちだ。機嫌を損ねると公認やポストがもらえないかもしれないと意見が違っても反対しにくくなる。それが1強と言われる安倍晋三政権のような形に表れる」
菅前首相をはじめ、中選挙区を経験していない議員が増えたことによって議員同士の切磋琢磨がなくなったため、「政党と政治家は劣化する」とまで言い切る。
「政策で意見をぶつけ合う経験をしていない。公認をもらえば党首の顔で勝てるから、人が育たない。『○○チルドレン』がいい例だ」
公明党副代表の井上義久氏は、中選挙区制下では議員と選挙区の有権者のつながりが密だったと振り返り、「中選挙区では専門分野を磨き、『自分の足で立てる』政治家も育った。小選挙区では党の候補者が1人だけで、公認さえ得られれば自動的に党が全面支援してくれる。政治家が自分の足で立つ意識は薄れた」
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小選挙区制により金権政治打破という目的は、一応達成された。
派閥の長や個人政治家に巨額の金が流れるという、かつてのロッキード事件やリクルート事件のような事件は起こっていない。
愛知和男氏の言う通り、これは政治改革の成果である。
しかし、それは小選挙区制への移行だけではなく、政党交付金による効果も大きかったように思われる。
もちろん、選挙や政治に金がかからなくなったわけではない。
最近でも、河井夫妻による参院広島選挙区の買収事件と自民党からの1億5000万円の提供、秋元司前衆院議員によるカジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐる汚職事件が起こっている。
10月17日付け日本経済新聞は、過去の小選挙区制による衆議院選を分析した結果、「資金を投じるほど強さを発揮する」としている。
形を変えた金権政治が起きる可能性は否定できない。
また少数の利益集団ではなく多数の意見を聞く政治が実現できるとするメリットも改善されなかった。
選挙で選ばれた議員が多くの問題について民意を反映しているというのは、代議制民主主義のフィクションである。
制度上、小選挙区制の下では一位なら30%の得票でも当選するので、残りの多数の票は無視される。
現職優先の下で、新人が党の公認を受けるのは難しい。
ところが、世襲候補の場合、現職である親などから地盤を引き継ぐので、新人でも党の公認を受けられる。
しかも、世襲候補は、地盤、看板、カバン(金)の3バンを引き継ぐので、当選の確率はさらに高まる。
「新人候補の当選率は非世襲で1割ほどだが、世襲は6割に達する」
世襲が起こるのは、世襲候補が望むためだけではない。
後援会組織のメンバーも、選挙区における自己の利益や利権の維持のために、世襲を要求するからだ。
「単に生まれる苦労をしただけ」の人が政治家になっていく。
逆に、河井夫妻のように3バンのない人たちは、無理をしてしまう。
今の自民党は世襲議員だらけだ。
中には優れた人もいないわけではないが、政治家の子供よりも、高い志と広く深い知識を持つ人はいるはずなのに、その人たちには立候補のチャンスが与えられない。
国民も政治家の子供からしかリーダーを選べないのでは、日本の将来はどうなるのだろうか?
こうした人たちに、たたき上げで百戦錬磨の外国首脳と交渉することを任せられるのだろうか?
自民党に世襲候補が多くなる中で、非世襲候補は野党からの立候補を模索することになる。
野党は非世襲候補の受け皿になるが、与党と主義主張が異なる人が野党候補になるわけではなくなる。
野党第一党は第二自民党となる。
この問題を解決するためには与野党の公認候補選びに予備選挙を導入すべきである。
現職であっても、支持を失えば、公認候補となれない、ボーッとしていては議席を維持できないとすれば、必死で政策の勉強等を行うだろう。非世襲候補であっても、能力、魅力があれば、現職に代わり、公認候補となれる。
もう一つの方法は、党議拘束を緩めることである。
アメリカの政党では、党議拘束はない。
与党議員でも大統領が望む法案に反対する。
各議員へのロビー活動は活発になるが、議員の政策への理解度は高まる。
日本と同じ議院内閣制をとるイギリスでも、はっきりと党議拘束をかけるのは予算案だけで、ブレグジット法案の採決に見られるように、党議拘束は緩やかである。
小選挙区制は、バラ色の制度ではなかった。
しかし、これで政治家が小粒になったと言っても、三角大福中の時代から日本人の素質や能力が低下しているのではない。
政治家になるチャネルが細くなり、かつ素質や能力を磨かなくても済むシステムになっていることが問題なのだ。
世襲議員を含め今公認を得ている人たちからは、改革の声は上がらないだろう。
選挙制度の再検討に向けて、政治を動かす世論の形成が望まれる。
やはり予備選は導入すべきでしょう。
各党は候補者を公認する前に、それぞれの党内でしっかり人物や能力などを見極めて擁立するようにすべきです。
話す力が無い、説明する能力が無い、無い無いの能無し議員ばかりでは話になりません。
少しずつでも良い方向に進めていくべきです。
応援してください。
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